Creator’s note | 時任 海斗「絵を描くことは穴を掘ること」

Creator’s note | 時任 海斗「絵を描くことは穴を掘ること」

 

4度目となるFEELSEEN GINZAでの個展の前に、今自分が感じている、絵を描く行為について(コンセプトといよりスタンス)を一度言語化してみようと思い文章を書いてみた。抽象的な考えを伝えることは難しいけれど、その断片でも共有できたら嬉しい。

絵を描く行為を別のことに置き換えるとしたら、それは「穴掘り」のようだと思う。

私は絵を描く人たちについて、こんな印象がある。地球の中心に「生命の秘密」みたいなものが隠されていて、絵を描くということを通して、その中心の核に向かって画家はみんな穴を掘っている。

その核に一番近づいた者はなにかを得られるのかもしれない。というなんとなくの予感に従って穴を掘り続けている(=絵を描き続けている)。

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絵は古典絵画、モダンアート、現代アート、アウトサイダーアートなどその他諸々に分類される。また自分をなにかしらの枠に分類し、その枠のルールに従ってスポーツの様に制作をすることで、その枠の中での評価を目指すプレイヤーもいる。

例えば、現代アートではより深い穴を効率良く掘った者が勝ちとされている気がする。深く掘る効率を上げるために、過去のプレイヤー(画家)の掘り方(=美術史など)を参考にしたりする。そして絵を評価する側は、穴の深さを測る専門的な技術を持っていて、深いとか浅いとか言っている。ピカソやマティスやセザンヌがとっても深くてでかい穴を掘ってしまったので、プレイヤー(絵描き)はこれより深く掘れるのかな?と頭を悩ましたりしている。

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しかし、穴を掘る人たちには細く深い穴を効率良く掘ることに価値を感じている人もいれば、深さには興味を示さず、穴の造形だけに興味を持っている人もいるし、穴を掘る行為自体が楽しくて深さにも形にも興味が無く、とにかく多くの穴を掘りまくっている者もいる。

だから、穴の深さを測る専門家が奇妙な形の浅い穴を見て、この穴は浅いからだめだなんて言ったりもする。しかしその穴を掘った本人は深さなど気にもとめていない。でも穴の深さの計測方法が変わって、何十年後かにその穴は実はとても深いのではと再評価されたりもする。

私には絵を描く人たち、評価する人たちがこのように見える。というより、音楽家や建築家、科学者も、みんな様々なスコップを持って穴を掘っているのではないかと思う。私は今のところ「絵」というスコップが一番掘りやすいから絵を描いている。


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作らない人も、作り手の掘った穴からエネルギーを受け取ることができる。絵を見たり、音楽を聴いたり、服を着たり、ご飯を食べたりして。作らなくても、エネルギーを発する装置としての誰かが掘った穴を、生活に加えることができる。だから観る人は深さを測る専門家になる必要はないけれど、自分のために、自分に作用する穴を見つける鍛錬は必要じゃないかと思う。エネルギーを求めているという点で、作者も鑑賞者も同じ立場にいると私は思う。

ちなみに私は鑑賞者の立場になると、音楽からエネルギーを受け取ることが一番得意だ。


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そして私が絵描きとして何を期待してスコップを握っているかというと、いつか自分にしか掘れない「ある形状の穴」を掘ることができれば、土の下に隠れていた大きな岩がゴロッと取れて、ボカッとでかくて深い穴が現れるということを期待して掘っている。つまり「形こそが深さに直結している。」という仮説を立てている。

ちょっと意味がわからないと思うけれど、そんな感覚を信じて穴を掘っているとしか言いようがない。

これから始まるFEELSEEN GINZAでの展示には、私の掘った様々な形の穴が並ぶ。そこから生命のエネルギーみたいな何かを感じてもらえたら嬉しい。

※穴そのものを描いた絵が展示されるわけではありません。

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時任海斗
@kaito_tokito

木村タカヒロ氏の私塾で1年間絵を学び、日常とは別の場所にあるユートピアを描く。
静と動を一つの画面に共存させ、どこかノスタルジーを感じさせる、エネルギッシュで暖かい画面を目指している。
SHIBUYA AWARDS 2024 小山登美夫賞 、オーディエンス賞受賞など。


-Solo Exhibition-

時任海斗 個展 - SANSUI -
会場 : FEELSEEN GINZA
@feelseen.ginza

期間 : 2025/5/31(土) 〜 6/22(日) 
Close : 月曜日
Open : 12:00-19:00

在廊予定日
5/31(土). 6/1(日). 6/3(火)
13:00-18:00

※在廊日時は予告なく変更になる場合がありますのでご了承ください。

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