ぬいぐるみと私
多くの人は『ぬいぐるみ』と『人形』の境界線を、あまり意識せずに過ごしています。
人形は文字通りヒトガタなので、人の形をしたものの総称であり、素材などは限定しません。一方ぬいぐるみとは、布でくるまれて縫われたものの総称です。
私は人形も好きでしたが、それは布とわたで作られた柔らかいものに限定されており、人の形のぬいぐるみであり、リカちゃん人形ではありませんでした。
私のお気に入りは、手芸好きの叔母が作ってくれた、布製の女の子の人形。しかしその子は、洋服が体に縫い付けられていて着替えをさせられず、毛糸の髪の毛はボンドで頭に貼り付いており、それらをとても残念に感じていました。
人形が可哀想だ、といつも思っていたのです。
そしてその記憶が、私の人形作りの原点になった気がします。
今私が作りたい人形は、布とわたでできており、長い髪の毛は解くことができて、ボンドが使われておらず、洋服を着替えさせることができて、人生をのびのびと楽しんでいるような人形です。
そしてネコやキツネのぬいぐるみに関しても、一貫して彼らが楽しく居心地が良さそうにしていることが、私にとってはとても重要なのです。
私の人形作りのきっかけは、小学生の頃に友人宅で見かけたピエロでした。目はボタン、体はわたの入った布のパーツを繋ぎ合わせた簡単な構造で、「これなら私にも作れるかも」と思い立ち、帰宅してから試行錯誤をし、それかしばらく時間をかけて、おかしなピエロの人形を大量に作りました。
それからの私は、断続的にではありながらも、様々なものを作り続け、学生時代には陶器で胸像を作ることに夢中になりました。さまざまな素材を用いましたが、いつもモチーフは動物か人でした。
幼い頃からの大切なぬいぐるみや人形、そして様々な人や本、映画との出会いを経て、今私は、ぬいぐるみを作ることを仕事にしています。
私にとってのぬいぐるみは、『物』と『生き物』の中間にある存在です。
私はぬいぐるみを作るたびに、それが人の形であろうと、ネコやキツネの形であろうと、そのぬいぐるみがどんな性格で、どんな本を読んで、どんな毎日を過ごしているのかを想像して楽しんでいます。
いつも私の作品は、一体一体にまつわる物語と共に生まれています。
かつて自分のために作ってきた無数の作品は、私自身が欲しかった味方でした。
そしてぬいぐるみが職業となった今は、私の作ったぬいぐるみが、それを手にした誰かの友達になって、その方の人生に寄り添いますように、といつも願っています。
人形作家
波津 あゆ子
Profile:
波津あゆ子
幼少期をブラジル、日本、イタリアで過ごす。
国際基督教大学卒業後、文化服装学院にて洋裁を学ぶ。
都内プレタポルテ縫製職に従事後、作家活動を開始。
代表作にテレビ東京ドラマ「僕の姉ちゃん」オープニング人形など。
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どちらもとても素敵な作品です。まだご覧になっていない方はぜひ店頭、オンラインストアでご覧ください。